
築50年を超える遊休不動産をどう活かすか。クライアントが抱えていたのは、建物の再生方法そのものよりも、そこに何を宿らせるかという問いでした。
同じ頃、私たち自身も居場所を探していました。名前だけの共創スペースは福岡にも数多くありましたが、周りの若手起業家やクリエイターに聞くと、結局みんな自宅かカフェで作業している。効率よく作業することよりも、人との納得感や関係性を大事にしながら働ける場所が、どこにもありませんでした。
私たちは、あらゆる場面で「効率化していい部分」と「あえて手を触れず、非効率なままにしておく部分」を分けて考えます。誰かと出会うまでの距離や、意思決定にかかる手間は、できる限り減らしていい。けれど出会った後に何を試すか、どう回り道するかという中身の自由さは、守られるべきものです。
利用料を低く抑えたのは、出会うまでのハードルを下げるためです。一方で什器は、内装業者に発注せず入居企業自身の手でつくっています。一緒に手を動かす時間の中でしか生まれない関係性があるからです。
コンセプトは「森の中を歩く感覚」。均質で硬質なオフィスではなく、呼吸できる環境を目指しました。間仕切りは木々に見立てて高さを抑え、直線的に並べず、あえて角度をつけて配置しています。
棚の高さは、座っている状態だと隣の人と視線が合わない高さに、けれど立ち上がると自然と顔が見えてコミュニケーションが生まれる高さに設定しています。集中したいときは黙々と作業でき、ふと顔を上げれば誰かと話せる。素材も、経年変化を劣化ではなく味わいとして受け入れられる、自然に近いものを選びました。




大学院では、小さな個店やクリエイターが自然と集まり始めるエリアを調査してきました。そこで見えたのは「安く、低リスクで挑戦できる余白がある場所に、個性的な店が集まる」という、拍子抜けするほど単純な法則です。
そして、その余白を生んでいたのは、土地の所有構造や、改修を請け負う工務店・内装業者の存在でした。改修という作業そのものが、地権者と新しい担い手をつなぐ接点になっていたのです。什器を入居企業自身につくってもらっているのは、同じ理由からです。